事業承継にかかる費用を完全解説!税金、手数料、支援制度まで
この記事のポイント
- ✓ 事業承継には税金、専門家への手数料など多様な費用が発生し、承継方法や後継者によって金額が大きく変動する
- ✓ 相続税、贈与税、法人税といった税金は事業承継税制や各種補助金の支援制度活用で負担軽減できる可能性もある
- ✓ 費用の詳細や支援制度を理解し、専門家に相談するのがおすすめ。適切な準備と対策で円滑な事業承継の実現を目指したい
あなたが企業の経営者で、会社を新たな後継者に任せることを考えはじめているのであれば、事業承継の費用についての不安や疑問がないでしょうか。
当事務所の税理士がこれまでに携わったケースでも
「息子に会社を継がせたいが、多額の相続税や贈与税で、かえって負担をかけてしまわないだろうか」
「長年苦楽を共にした従業員に会社を託したいが、株式を買い取る資金が用意できるか心配だ」
といった悩みや不安を持つ経営者の方がいらっしゃいました。
一口に事業承継にかかるお金と言っても、税金や手数料など支払うお金の性質の違いや、事業承継先・方法による費用の違いがあります。また現在の経営者か後継者かという立場によっても発生する費用が異なります。
一般的に事業を手放すオーナーは資産を譲渡したり、自社株式の対価を受け取ったりする側の立場なので、持ち出しで大きな負担になるような金額を支払うケースはありませんが、
- 会社を引き継ぐ親族が負担する税金
- 第三者に承継する場合に、自身が負担する税金
- 事業承継の専門家・仲介にかかる相談料・手数料
といったことを知っていると、事業承継の方法を比較したり、相談先を検討したりする際の良い判断材料になります。
この記事では、こうした事業承継にかかる費用について、法人税から事業承継実務まで幅広い知識を持つ税理士が徹底解説します。
目次
事業承継にかかる費用は?
ここからは事業承継を行う際に必要なお金について、税金とそれ以外に分けて概要を説明します。
事業承継にかかる税金一覧
事業承継を行う際には次のような税金がかかります。
税金 | 内容・課税対象 | 負担する人 |
相続税 | 相続または遺贈により財産を取得した場合に、その取得した財産の価額を基に課される税金。 | 後継者(相続人) |
贈与税 | 個人から財産の贈与を受けた場合に、その取得した財産の価額を基に課される税金。 | 後継者 |
所得税 | 個人の所得に対して課される税金。事業承継においては、主に株式や事業用資産の売却益(譲渡所得)に対して課される。 | 現経営者 |
法人税 | 法人の所得に対して課される税金。事業承継においては、主に法人が保有する株式や事業用資産を売却した際の売却益に対して課される。 | 現経営者の会社 |
登録免許税 | 土地や建物などの不動産を相続や贈与、売買で取得した場合の、所有権移転登記などに対して課される税金。 | 後継者 |
不動産取得税 | 土地や建物などの不動産を取得した際に、その取得に対して課される税金。売買だけでなく、相続以外の方法(贈与など)で取得した場合や、建物を新築・増改築した場合も含む。ただし、相続の場合は非課税。 | 後継者 |
事業承継の方法(親族内承継、従業員承継、M&A)や、誰がどの財産を、どのような方法(相続、贈与、売買)で取得するかによって、発生する税金の種類や金額が変わってきます。
詳しい内容については、後述の「事業承継にかかる税金、費用・手数料の詳細」で説明しているので、必要な方はそちらをご覧ください。
事業承継にかかる費用・手数料一覧
費用や手数料としては、会社の株式取得にかかる費用のほかに、税理士や弁護士、M&Aを仲介するコンサルタントといった専門家に支払う相談料・手数料がかかります。
【事業承継にかかる費用・手数料】
- 株式の取得費用:後継者が現経営者などから株式を取得する際にかかる費用。取得方法(相続、贈与、売買)によって、税金や計算方法が異なります。
- 専門家への手数料:
- 税理士: 事業承継計画の策定、株価評価、税務申告などのサポートに対する報酬。
- 弁護士: 遺言書作成、遺産分割協議、各種契約書作成など、法務面のサポートに対する報酬。
- M&A仲介会社: M&Aの相手探し、交渉、契約締結などのサポートに対する報酬(着手金、中間報酬、成功報酬など)。
- その他: 不動産鑑定士、社会保険労務士など、必要に応じて依頼する専門家への報酬。
事業承継の相談先と役割の違いについて詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご確認ください。
事業承継にかかる費用についてのよくある質問
ここでは、事業承継にかかる「費用」について、多くの経営者が抱える質問とその回答を紹介します。
Q1. 事業承継を検討する際に、費用面でまず何を確認すべきでしょうか?
A1. まず、事業承継の方法(親族内承継、従業員承継、M&A)によって、かかる費用が大きく異なることを理解しましょう。その上で、自社の規模や後継者候補の有無などを考慮し、どの方法が適しているかを検討します。
親族内承継の場合は、相続税や贈与税が主な費用となります。従業員承継の場合は、後継者が株式を買い取るための資金調達が課題となります。M&Aの場合は、仲介会社への手数料や、企業価値評価の費用などが発生します。
また、いずれの承継方法でも、事業承継計画の策定や、各種手続きを専門家に依頼する場合には、その報酬が発生します。
Q2. 親族内承継を検討しています。相続税や贈与税について、どのような対策が考えられますか?
A2. 親族内承継の場合、相続税や贈与税の負担が大きくなるケースがあります。
そのため、まず考えられるのは「事業承継税制」の活用です。この制度は、後継者が取得した非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税が猶予・免除される制度です。ただし、適用を受けるためには様々な要件を満たす必要があり、一定期間内に事業を継続できない場合は納税猶予が打ち切られ、利子税が発生するリスクもあります。
また、生前贈与を活用し、時間をかけて株式や事業用資産を後継者に移転することで、相続税の課税対象となる財産を減らすことも有効な手段です。
事業承継に関わる税制は複雑であり、個々のケースによって最適な対策は異なります。事業承継に強い税理士などの専門家に相談し、自社に適した対策を検討しましょう。
Q3. 従業員承継を考えています。後継者の資金調達を助ける支援策はありますか?
A3. 従業員承継の場合、後継者が自社株式を買い取るための資金をどのように調達するかが大きな課題となります。
資金調達方法としては、金融機関からの融資が一般的です。この際、「経営者保証に関するガイドライン」に基づき、後継者が経営者保証を負わずに融資を受けられる可能性があります。
また、日本政策金融公庫の「事業承継・集約・活性化支援資金」など、事業承継に特化した融資制度を活用することも検討しましょう。これらの融資制度では、通常の融資よりも有利な条件で資金を調達できる場合があります。
Q4. 事業承継の費用を抑えるために、どのような支援策が利用できますか?
A4. 事業承継にかかる費用負担を軽減するために、国や自治体は様々な支援策を用意しています。5章で紹介している「事業承継・引継ぎ補助金」は、その代表的なものです。
この補助金は、事業承継やM&Aに取り組む中小企業の経費の一部を補助するもので、「経営革新」「専門家活用」「廃業・再チャレンジ」の3つの枠組みがあります。例えば、「専門家活用」枠では、M&Aに係る専門家への依頼費用(仲介手数料、デューデリジェンス費用など)が補助の対象となります。
事業承継先による費用の違い
ここでは、事業承継先(親族、従業員、M&A)による費用の違いを、具体的なケーススタディを交えて解説します。各承継方法における費用負担のイメージをつかんでいただければと思います。
親族内承継
親族内承継の場合、後継者が負担する費用として最も大きいのは、相続税や贈与税です。
- 相続税:経営者が亡くなった後、後継者が株式や事業用資産を相続する際に発生します。
- 贈与税:経営者が生きている間に、後継者に株式や事業用資産を贈与する際に発生します。
これらの税金は、財産の評価額に基づいて計算されます。評価額が高額になるほど、税負担も大きくなります。
ただし、事業承継税制の適用を受けることで、納税が猶予または免除される場合があります。この制度を活用するためには、一定の要件を満たし、「特例承継計画」を提出する必要があります。
また、専門家への報酬も発生します。例えば、事業承継計画の策定を税理士に依頼したり、遺言書の作成を弁護士に依頼したりする場合には、それぞれの専門家への報酬が発生します。
ケーススタディ:製造業を営むA社長(65歳)の事例
A社長は、息子(35歳)に会社を継がせるため、事業承継税制(非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予及び免除制度)の活用を検討しています。
- 会社の状況
- 事業内容: 製造業
- 自社株式の評価額: 約5億円
- A社長は自社株式の100%を保有
- 事業承継の方針
- A社長は、所有する全ての自社株式を生前に息子へ贈与する予定。
- 事業承継税制の特例措置を活用し、贈与税の納税猶予を受けることを検討。
このケースでは、事業承継税制の適用を受けることで、息子は贈与税の納税猶予を受けられる見込みです。仮に、事業承継税制の適用を受けずに5億円の株式を贈与した場合、約2億2,390万円もの贈与税が課税されることになります。一方、事業承継税制の特例措置の適用を受けることができれば、要件を満たす限り、贈与税の納税が猶予されます。
従業員承継
従業員承継の場合、後継者となる従業員が自社株式を買い取るための資金を準備する必要があります。
- 株式の取得費用:後継者が現経営者から株式を買い取るための費用です。この費用は、株式の評価額に基づいて決定されます。
- 資金調達のコスト:多くの後継者は自己資金のみで株式を取得することは難しいため、金融機関から融資を受けることが一般的です。その場合、金利や信用保証料などのコストが発生します。
また、税務上の論点も検討しなければなりません。例えば、役員である後継者が現経営者から自社株式を時価よりも低い価額で譲渡された場合、その経済的利益に対して給与として課税されるリスクがあります。そのため、現経営者及び後継者は、税理士に相談し、客観的な株式の評価額の算定や、税務リスクについて検討しておくことが必要です。
さらに、専門家への報酬も発生します。例えば、株式の評価を税理士に依頼したり、資金調達について金融機関に相談したりする場合には、それぞれの専門家への報酬が発生します。
ケーススタディ:小売業を営むB社長(70歳)の事例
B社長は、長年会社に貢献してきた役員C氏(50歳)に会社を譲渡したいと考えています。
- 会社の状況
- 事業内容: 小売業
- 自社株式の評価額: 約1億円
- B社長は自社株式の100%を保有
- 事業承継の方針
- B社長は、所有する全ての自社株式をC氏に売却する予定。
- C氏は自己資金で株式を取得することが難しいため、MBO(マネジメント・バイアウト)の手法を活用し、金融機関からの融資と併せて株式を取得する予定。
このケースでは、C氏は金融機関と交渉し、自社株式を担保に融資を受けることで、株式取得資金を調達する見込みです。仮に、C氏が役員報酬を毎年500万円ずつ貯蓄していたとしても、1億円の株式を取得するためには20年もの期間を要することになります。MBOを活用することで、C氏は自己資金の負担を抑えつつ、早期に経営権を取得できる見込みです。
また、B社長とC氏が合意した株式の価額で譲渡した場合、時価との差額について、C氏に対して給与課税されるリスクがあります。そのため、B社長は税理士に依頼し、客観的な株価評価を実施しました。株価評価の費用は50万円程度でした。
M&A
M&Aの場合、売り手企業(現経営者)は、株式や事業の売却によって対価を得ることができます。ただし、売却益に対しては、所得税(法人の場合は法人税)が課されます。
一方、買い手企業は、株式や事業を取得するための資金を準備する必要があります。
また、M&Aでは、以下のような費用が発生します。
- 仲介会社への手数料:M&Aの仲介を依頼した場合には、仲介会社への手数料が発生します。手数料は、レーマン方式で計算されることが一般的です。
- 専門家への報酬:M&Aでは、**企業価値評価(バリュエーション)やデューデリジェンス(買収監査)**など、専門的な知識が必要となるため、弁護士、会計士、税理士などの専門家に業務を依頼するのが一般的です。これらの専門家への報酬が発生します。
ケーススタディ:IT企業を経営するD社長(55歳)の事例
D社長は、同業他社への自社株式の売却(株式譲渡)を検討しています。
- 会社の状況
- 事業内容: IT関連サービス
- 売上高: 約20億円
- D社長は自社株式の100%を保有
- 事業承継の方針
- D社長は、所有する全ての自社株式を同業他社に売却する予定。
- M&A仲介会社に依頼し、交渉を進めている。
このケースでは、M&A仲介会社が、複数の買い手候補企業との交渉を進め、企業価値評価は約10億円と算出されました。D社長は、企業価値評価や契約条件などを総合的に判断し、最終的な売却先を決定する予定です。
M&A仲介会社への手数料は、レーマン方式で計算されることが一般的です。例えば、取引金額が5億円以下の部分について5%、5億円超10億円以下の部分について4%…といった具合に、取引金額が大きくなるほど手数料率が下がる報酬テーブルが用いられます。今回のケースでは、取引金額が10億円と想定されるため、M&A仲介会社への成功報酬は約4,500万円(= 5億円 × 5% + 5億円 × 4%)となる見込みです。
一方、買い手企業は、M&Aの対価として、株式や事業を取得するための資金(このケースでは10億円)を準備する必要があります。
事業承継にかかる税金、費用・手数料の詳細
事業承継には様々な税金や費用・手数料がかかります。ここでは、代表的な税金と費用・手数料について解説します。税金や費用についての理解を深めたい方や、リファレンス的に確認したい方はぜひ役立ててください。
相続税
相続税は、相続または遺贈により取得した財産の合計額(債務などの金額を控除し、相続開始前3年以内の贈与財産を加算した金額。以下、課税価格といいます。)から、基礎控除額を差し引いた金額に対して課税されます。
1. 相続税の計算方法
相続税の計算方法は以下の通りです。
- 各相続人の課税価格を計算
- 各相続人の課税価格を合計
- 基礎控除額を差し引く(課税遺産総額)
- 課税遺産総額を法定相続分で按分
- 按分した金額に税率を乗じて相続税の総額を算出
- 相続税の総額を各相続人の課税価格に応じて按分
- 各相続人の税額控除等を適用して各相続人の納付税額を計算
- 基礎控除額: 3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)
2. 相続税の税率
相続税の税率は、以下の表の通り、10%から55%の8段階の超過累進税率となっています(2015年1月1日以後の場合)。
相続税の税率表
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
3. 相続税の具体例
例えば、相続財産の評価額が1億円、法定相続人が配偶者と子1人の場合、
- 基礎控除額: 3,000万円 + (600万円 × 2人) = 4,200万円
- 課税遺産総額: 1億円 - 4,200万円 = 5,800万円
- 配偶者の取得金額:5,800万円 × 1/2 = 2,900万円
- 子の取得金額:5,800万円 × 1/2 = 2,900万円
- 相続税の総額:2,900万円 × 15% - 50万円 + 2,900万円 × 15% - 50万円 = 770万円
- 配偶者の相続税額:770万円 × 1/2 = 385万円(配偶者には税額軽減があり、配偶者の取得した財産が「配偶者の法定相続分相当額」と「1億6千万円」のいずれか多い金額までであれば相続税はかかりません)
- 子の相続税額:770万円 × 1/2 = 385万円(税額控除等でさらに減額される可能性あり)
となります。
贈与税
贈与税は、個人から財産の贈与を受けた場合に、その取得した財産の価額を基に課される税金です。
1. 贈与税の計算方法
贈与税額は、その年中に贈与により取得した財産の価額の合計額から基礎控除額110万円を控除した金額に、税率を乗じて算出します。
2. 贈与税の税率
贈与税の税率は、一般贈与財産と特例贈与財産で異なり、以下の表の通り、10%~55%の8段階の超過累進税率となっています。
贈与税の税率表(一般贈与財産用:一般税率)
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | - |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
贈与税の税率表(特例贈与財産用:特例税率)
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | - |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
特例贈与財産とは、贈与により取得した財産のうち、贈与者からその年の1月1日において18歳以上の者(子や孫など)への贈与財産をいいます。
3. 贈与税の具体例
例えば、父親から20歳の子供へ1,000万円の現金を贈与した場合(特例贈与財産)
- 基礎控除後の課税価格: 1,000万円 - 110万円 = 890万円
- 贈与税額: 890万円 × 30% - 90万円 = 177万円
となります。
所得税
所得税は、個人の所得に対して課される税金です。事業承継においては、主に株式や事業用資産の売却益(譲渡所得)に対して課されます。
1. 譲渡所得の計算方法
譲渡所得は、以下の計算式で算出されます。
譲渡所得 = 売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)
・取得費: 売却した資産の購入代金や購入手数料など
・譲渡費用: 売却のために要した費用(仲介手数料、印紙代など)
2. 所得税の税率
株式等の譲渡所得は、原則として、他の所得と分離して税金を計算する申告分離課税の対象となります。
税率は、原則として約20%(所得税15% + 住民税5%)です。土地・建物等の譲渡所得は、原則として他の所得と分離して税金を計算する申告分離課税の対象となります。
所有期間が5年以下(短期譲渡所得)の場合には約39%(所得税30%、住民税9%)、所有期間が5年超(長期譲渡所得)の場合には、約20%(所得税15%、住民税5%)の税率となります。
法人税
法人税は、法人の所得に対して課される税金です。事業承継においては、主に法人が保有する株式や事業用資産を売却した際の売却益に対して課されます。
1. 法人税の計算方法
法人税は、法人の各事業年度の所得に対して課されます。
2. 法人税の税率
法人税の税率は、法人の種類や所得金額などによって異なりますが、事業承継に関係する中小企業について、普通法人で開始事業年度が2022年4月1日以後である場合には、以下の税率が適用されます。
- 年800万円以下の部分:19%(開始事業年度が2019年3月31日以前の場合には15%)
- 年800万円超の部分:23.2%
登録免許税
登録免許税は、土地や建物などの不動産を相続や贈与、売買で取得した場合の所有権移転登記などに対して課される税金です。
1. 登録免許税の計算方法
登録免許税は、不動産の固定資産税評価額に一定の税率を乗じて算出されます。
2. 登録免許税の税率
税率は、登記の原因(相続、贈与、売買など)によって異なります。主な原因と税率は以下の通りです。
登録免許税の税率表
登記の原因 | 税率 |
相続 | 0.4% |
贈与 | 2.0% |
売買 | 2.0% |
ただし、租税特別措置法により、租税特別措置法第72条~第73条の5までに規定する場合については、登録免許税の軽減措置が設けられています。
不動産取得税
不動産取得税は、土地や建物などの不動産を取得した際に、その取得に対して課される税金です。売買だけでなく、相続以外の方法(贈与など)で取得した場合や、建物を新築・増改築した場合も含まれます。ただし、相続の場合は非課税です。
1. 不動産取得税の計算方法
不動産取得税は、取得した不動産の固定資産税評価額に一定の税率を乗じて算出されます。
2. 不動産取得税の税率
税率は、原則として4%ですが、住宅や土地については、2027年3月31日までに取得した場合、3%に軽減されています。
専門家への費用・手数料
事業承継を円滑に進めるためには、税理士や弁護士、M&A仲介会社などの専門家のサポートが必要となる場合があります。これらの専門家に支払う費用・手数料は、依頼内容や事業承継の規模などによって異なります。
- 税理士:事業承継計画の策定、株価評価、税務申告などのサポートに対する報酬。相談料は、時間単位で設定されていることが多くなります。事業承継計画の策定や株価評価などの業務を依頼する場合は、別途費用がかかることもあります。
- 弁護士:遺言書作成、遺産分割協議、各種契約書作成など、法務面のサポートに対する報酬。相談料は、こちらも時間単位で設定されているケースが多いでしょう。
- M&A仲介会社:M&Aの相手探し、交渉、契約締結などのサポートに対する報酬。着手金、中間報酬、成功報酬などから構成されます。成功報酬は、M&Aの取引金額に応じたレーマン方式で算出されることが一般的です。
- その他:不動産鑑定士、社会保険労務士など、必要に応じて依頼する専門家への報酬。
これらの費用は、事業承継の方法や依頼内容によって大きく異なります。事前に複数の専門家から見積もりを取り、比較検討することをお勧めします。
【コラム】事業承継における株式譲渡の方法
事業承継における株式譲渡の方法は「生前贈与」、「相続」、「売買」の3つがあります。
生前贈与
贈与契約により、現経営者が後継者に対して無償で自社株式を譲り渡す方法です。贈与契約とは、贈与者がある財産を無償で与えるという意思表示を行い、その財産を受け取る側がこれに応じることによって成立する双務契約で、贈与契約があったことを証明する贈与契約書を作成することが一般的です。
現経営者が見返りを求めずに株式を譲渡するため、多くは親族内事業承継で利用されています。なお、生前贈与を受ける後継者に対しては、贈与税が課税されます。贈与税は累進税率で負担が大きい税金であり、生前の早い時期から少しずつ移転するケースが多く見受けられます。
相続
現経営者が亡くなった後に、遺言書や遺産分割協議等によって、後継者に対して株式譲渡する方法です。生前贈与と同じく見返りを求めないものであり、親族内事業承継でよく行われています。
現経営者が生前に遺言書を遺していれば、指定した後継者に対し自社株式を譲り渡すことができます。また、法定相続人以外の親族などを後継者として指定することもできます。
遺言書がない場合は法定相続人全員による遺産分割協議によって、自社株式の承継者と承継割合を決めることになります。遺産分割協議は法定相続分が基準となり、現経営者の遺志に沿わない形で事業承継される可能性もあります。また、後継者が法定相続人でなかった場合には、後継者は相続により株式を取得することができません。
なお、相続により自社株式などの財産を譲り受けた後継者に対しては、相続税が課税されます。
売買
現経営者等が保有する株式を対価と引き換えに譲渡する方法です。生前贈与や相続の場合と異なり、譲渡する株式と引き換えに金銭等を受け取ります。
社内事業承継やM&Aによる第三者に対する事業承継の場合は、ほとんどが売買での株式譲渡となります。自社株式を譲渡した株主が個人の場合には、その売却益に対して譲渡所得税等が、譲渡した株主が法人の場合には法人税が課せられます。
事業承継の費用に対する支援制度
事業承継税制(非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予及び免除制度)
事業承継税制は、後継者が取得した非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税が猶予・免除される制度です。
一定の要件を満たすことで、後継者の税負担を大幅に軽減し、円滑な事業承継を支援します。2018年度税制改正において、10年間の特例措置として、納税猶予の対象となる非上場株式等の制限(総株式数の最大3分の2まで)の撤廃や、納税猶予割合の引上げ(80%から100%)などの大幅な拡充が行われました。
後継者が事業承継税制の適用を受けるためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 「特例承継計画」を提出し、都道府県知事の確認を受けていること
- 先代経営者、後継者、会社の要件を満たしていること
- 担保の提供や、承継後5年間の事業継続などが必要になること
経営者保証に関するガイドライン
「経営者保証に関するガイドライン」は、経営者保証に依存しない融資を促進するための方針を示したものです。事業承継の場面においては、後継者が先代経営者の個人保証を外すことを金融機関と交渉する際などに活用されています。
事業承継時に後継者が「経営者保証に関するガイドライン」の要件を満たすことで、新たな資金調達を行う際に、経営者保証を求められないことが期待できます。
遺留分についての特例
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に対して、法律上保証された遺産の最低限の取り分のことです。
事業承継においては、後継者以外の相続人から遺留分減殺請求がなされると、後継者の経営に支障をきたす可能性があります。
「経営者の有する自社株式(または事業用資産)を生前贈与した場合、遺留分算定の基礎財産から除外できる」という民法の特例が設けられています。
また、固定除外合意・固定合意によって、後継者以外の相続人とのトラブルを回避することができます。
事業承継・引継ぎ補助金
事業承継やM&Aに取り組む中小企業を支援する補助金で、「経営革新」「専門家活用」「廃業・再チャレンジ」の3つの枠組みがあります。
- 経営革新: 後継者による設備投資などの経費を補助。
- 補助上限:原則600万円(従業員の賃上げ等で800万円)
- 補助率:1/2(デジタル化や賃上げを実施すると2/3)
- 専門家活用: M&Aに係る専門家への依頼費用を補助(買い手・売り手双方が対象)。
- 補助上限:250万円(買い手で最大450万円の場合もあり)
- 補助率:1/2
- 廃業・再チャレンジ: 廃業を伴う事業承継やM&Aにかかる費用を補助。
- 補助上限:150万円
- 補助率:1/2
補助金の内容は年度ごとに変更されるため、最新の公募要領を確認することが重要です。また、審査があり、必ず採択されるとは限らない点に注意しましょう。
まとめ
事業承継には、税金や専門家への手数料など、様々な費用がかかります。そして、事業承継の方法や、後継者の有無、会社の規模などによって、必要な費用は大きく変わってきます。
「何から手をつけていいか分からない」「誰に相談すればいいのだろう」と不安に感じられるかもしれません。しかし、適切な準備と対策を行うことで、事業承継に伴う費用負担を軽減し、円滑な承継を実現することが可能です。
まず大切なのは、自社の状況を正しく把握し、事業承継にかかる費用を「見える化」することです。その上で、本記事で解説したような、各種税制や支援制度について理解を深めることが重要です。
そして、事業承継を具体的に検討する段階になったら、早い段階で専門家に相談することをお勧めします。 税理士や弁護士、M&A仲介会社などの専門家は、事業承継に関する豊富な知識と経験を有しています。
自社に適した承継方法の検討、費用の試算、各種手続きのサポートなど、専門家の支援を受けることで、不安を解消し、スムーズな事業承継を実現できるでしょう。当事務所でも事業承継に関する無料相談を承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。