M&A仲介とは?手数料の相場から選び方まで【専門家監修】

この記事のポイント

  • M&A仲介は、事業承継の有力な選択肢。専門会社が企業価値評価、交渉、契約までを中立的な立場で支援し成約をサポートする
  • M&A仲介のメリット:最適な相手探し、企業価値最大化、時間/労力節約、リスク軽減。専門知識でスムーズな交渉を行う
  • 費用は成功報酬型が多く、取引額に応じた手数料率(レーマン方式)が一般的。着手金/中間報酬の有無は確認が必要だ

「自分の後の会社の後継者が見つからない。M&Aという方法もあるようだけど、費用面で不安があるし、何から始めたらいいんだろう」
「M&A仲介会社に相談してみたいけれど、具体的にどんなことをしてくれるんだろう?」

あなたが中小企業の経営者で、真剣に事業承継を考え始めたばかりなら、このような壁に ぶつかった経験があるのではないでしょうか。

実際、後継者が見つからず、M&Aによる事業承継を検討する経営者は増えています。しかし、M&Aは専門的な知識が必要なうえ、高額な費用がかかるイメージがあり、なかなか踏み出せないという方も多いでしょう。

この記事では、M&A仲介会社が提供するサービス内容とそのメリット・デメリット、M&A仲介を利用する際にかかる費用・手数料の相場と言った内容について、事業承継を専門とするプロが説明します。

記事を読み進めることで、

  • 複数のM&A仲介会社を比較検討し、自社に最適な会社を選ぶことができる
  • M&Aにかかる費用を事前に把握し、資金計画を立てることができる
  • 専門家のアドバイスを受けながら、円滑に事業承継を進めることができる

といったアクションが取れるようになります。

あなたが引退したあとも、会社を成長・発展させるために、後継者や事業承継で悩む方はぜひ参考にしてみてください。

M&A仲介・M&A仲介会社とは?

事業承継におけるM&A仲介

事業承継の方法には、家族や親族が会社を引き継ぐ「親族内承継」、役員や従業員に承継する「従業員承継」、企業の合併や買収を指す「M&A(Mergers and Acquisitions)」の3つの方法があります。

事業承継におけるM&Aとは、自社の株式や事業を社外の第三者に譲渡し、次の経営者とすることです。近年は後継者不足に悩む中小企業の間でM&Aによる事業承継の数が増えており、M&A仲介の需要も高まっています。

M&A仲介の必要性

M&Aは売り手企業と買い手企業が直接交渉して進めるケースもありますが、M&A仲介会社が両者の間に立ち、中立的な立場で交渉の仲介や助言を行うのが一般的です。

M&Aにはマッチングから交渉、企業価値評価、契約、クロージングと様々なプロセスがあり、完結までには幅広く専門的な知識を必要とします。そのため、承継をスムーズに進めるためにM&A仲介を頼ることが多くなります。

M&A仲介を利用した事業承継の流れ

一般的に、M&A仲介を利用した場合の流れは以下のようになります。

  1. 相談・依頼:M&A仲介会社に相談し、仲介契約を締結します。
  2. 企業価値評価:仲介会社が売り手企業の企業価値を評価します。
  3. 買い手企業の選定:仲介会社が買い手企業候補をリストアップし、売り手企業に提案します。
  4. トップ面談:売り手企業と買い手企業の経営者同士が面談し、M&Aの可能性を探ります。
  5. 基本合意:売り手企業と買い手企業が、M&Aの基本的な条件について合意します。
  6. デューデリジェンス:買い手企業が、売り手企業の実態を詳細に調査します。
  7. 最終交渉:デューデリジェンスの結果を踏まえ、最終的な条件交渉を行います。
  8. 最終契約:売り手企業と買い手企業が、M&Aの最終契約を締結します。
  9. クロージング:資金決済や株式譲渡などの手続きを行い、M&Aを完了させます。

案件の規模や複雑さ、マッチングの難しさによっても変わりますが、M&Aの成立までには半年から1年程度かかることが多いため、このくらいの期間を想定しておきましょう。

M&A仲介への利用が適したケース

以下のようなケースでは、M&A仲介の利用が特に有効です。

  • 複数の選択肢を比較検討したい場合:M&A仲介会社は、独自のネットワークやデータベースを有しており、自社で探すよりも多くの候補から最適な相手を見つけてくれる可能性があります。複数の買い手候補と同時に交渉を進めることもできるため、結果として売却価格や条件の引き上げにも繋がることもあります
  • なるべく手間をかけずにM&Aを進めたい場合:M&Aは交渉だけでなく、契約書類の作成やデューデリジェンス(企業調査)など、非常に専門的かつ複雑なプロセスをたどるため、多くの時間や手間がかかります。M&A仲介会社はこれらのプロセス全般を代行し、経営者の負担軽減に繋がります。
  • 交渉をスムーズに進めたい場合:M&Aの交渉は、価格や条件、スケジュールなど多岐にわたり、交渉が長期化・複雑化するケースも少なくありません。M&A仲介会社は交渉のプロフェッショナルであり、豊富な経験に基づいた交渉ノウハウを有しているため、売り手企業と買い手企業の双方が納得できるような交渉の進行をサポートしてくれます。

M&A仲介についてのよくある質問

M&A仲介について詳しく解説する前に、事業承継を考えている経営者の方からよく寄せられる質問についてQ&A形式でお答えします。

Q1.M&A仲介会社って、具体的にどんなことをしてくれるの?

A1. M&A仲介会社は、売り手企業と買い手企業のマッチングから、交渉の仲介、契約締結のサポートまで、M&Aのプロセス全般を支援します。具体的には、買い手企業の選定、企業価値評価、条件交渉、デューデリジェンスのサポート、契約書作成支援、クロージング手続きのサポートなどを行います。

詳しくは3章で解説しますので、そちらをご覧ください。

Q2.M&A仲介にかかる費用って、どれくらい?

A2. M&A仲介会社に支払う手数料は、M&Aの取引金額に応じて手数料率が変わる仕組みで決定されることが一般的です。例えば、取引金額が5億円以下の部分は5%、5億円超10億円以下の部分は4%といった具合に、取引金額が大きくなるほど手数料率が低下していきます。

また、着手金や中間報酬が発生する仲介会社もあります。着手金は数十万円から数百万円、中間報酬は成功報酬の10%〜20%程度が相場です。完全成功報酬制を採用している仲介会社であれば着手金や中間報酬は発生しません。

具体的な費用については、5章で詳しく説明します。

Q3.M&A仲介のプロセスにはどのくらいの期間がかかる?

A3. M&A仲介を利用した事業承継には、一般的に半年から1年程度の期間がかかります。これはあくまでも目安であり、案件の規模や複雑さ、交渉の進捗状況などによって期間は変わる可能性があります。

例えば、買い手企業がすぐに決まる場合もあれば、なかなか見つからない場合もあります。また、デューデリジェンスで問題が見つかり、交渉が長引くケースもあります。この点については3章で詳細なプロセスを解説します。

Q4.M&A仲介会社に依頼した場合の成約率はどのくらい?

A4. M&A仲介会社に依頼しても必ずしもM&Aが成立するわけではなく、案件の規模や内容、市場環境などによって成約率は大きく変わることになります。

豊富なネットワークと経験のある大手のM&A仲介会社ほど成約率が高い、といった傾向もあります。一方で、成約率だけを見てM&A仲介会社を選ぶのはリスクがあるとも言えます。成約率が高くても、自社に合わない仲介会社であれば、満足のいくM&Aを実現することはできません。自社のニーズに合った仲介会社を選ぶことが重要です。

Q5.仲介会社が提示する企業価値評価が低いという噂は本当?

A5. 企業価値評価は、M&Aの交渉において非常に重要な要素です。仲介会社によっては、企業価値を低く見積もることで、早期のM&A成立を優先させようとするケースもあると指摘されています。これは、多くの仲介会社が成功報酬制を採用しており、M&Aが成立しなければ大きな報酬を得られないためです。

企業価値評価に疑問がある場合は、セカンドオピニオンを求めることも検討しましょう。この点については「3-3. 税理士とM&A仲介どちらに相談する?」もぜひご覧ください。

M&A仲介会社の役割

主な役割

M&A仲介会社の主な役割は、売り手企業と買い手企業の間に入り、中立的な立場からM&Aの成立を支援することです。具体的には、以下のような業務を行います。

  • 買い手企業(または売り手企業)の選定・マッチング
    • M&A仲介会社は、独自のネットワークやデータベースを活用し、売り手企業の希望条件に合う買い手企業(またはその逆)をリストアップします。単に候補を挙げるだけでなく、各企業の特徴やM&Aへの意欲などを分析し、最適なマッチングを実現します。
  • 企業価値評価(バリュエーション)
    • 売り手企業の企業価値を客観的に評価し、適正な売却価格の算定を支援します。企業価値評価には、DCF法、類似会社比較法、純資産価額法など、様々な手法が用いられます。複数の評価手法を組み合わせることで、より精度の高い評価を行います。
  • 交渉の仲介・アドバイス
    • M&A仲介会社は、売り手企業と買い手企業の間に立ち、交渉が円滑に進むようサポートします。価格交渉だけでなく、契約条件全般について、双方にとって最良の条件で合意できるよう支援します。
  • デューデリジェンスのサポート
    • デューデリジェンスとは、財務、法務、税務、ビジネスなど、多岐にわたる売り手企業の実態を詳細に調査することです。M&A仲介会社は、デューデリジェンスの実施がスムーズに進むように関わります。
  • 契約締結のサポート
    • M&Aの最終契約書は、非常に専門的かつ複雑です。M&A仲介会社は、契約書の作成や締結をサポートし、売り手企業と買い手企業が十分に理解し、納得した上で契約を締結できるよう支援します。
  • クロージングのサポート
    • クロージングとは、M&Aの最終契約に基づき、資金決済や株式譲渡などの手続きを行い、M&Aを完了させることです。M&A仲介会社は、クロージングが確実かつ円滑に実行されるよう、各種手続きをサポートします。

FA(ファイナンシャル・アドバイザー)との違い

M&Aの支援を行う専門家として、M&A仲介会社のほかに、FA(ファイナンシャル・アドバイザー)が存在します。両者の違いは、立場と業務範囲にあります。

M&A仲介会社は、売り手企業と買い手企業の間に入り、中立的な立場からM&Aの成立を支援します。一方、FAは、売り手企業または買い手企業のいずれか一方と専属契約を結び、その依頼者の利益を最大化するために助言や交渉を行います。

一般的に、M&A仲介会社は、案件のマッチングからクロージングまでの全てのプロセスを支援します。一方、FAは、企業価値評価、交渉戦略の立案、契約条件の交渉など、特定の業務に特化してサービスを提供することが多いです。

M&A仲介と税理士の両方に相談する?

事業承継を検討する際、誰に相談すべきかと考える経営者の方も多いでしょう。

ここまで説明してきた通りM&A仲介会社はM&Aについて専門的な知識とネットワークを有していますが、会社の将来的な承継について考え始めた際には顧問の税理士など、身近な税理士にも相談することをお勧めします

事業承継には「親族内承継」「従業員承継」「M&A」など複数の選択肢があり、それぞれにメリット・デメリットがあります。例えば親族内承継であれば、相続税や贈与税の負担をいかに軽減するかが重要な課題となり、M&A仲介よりも税理士の方が税務面を考慮したアドバイスができるでしょう。

税理士は、「そもそもM&Aが最適なのか?」という論点から、事業承継計画を一緒に考えてくれる心強いパートナーでもあります。日々の経営や財産状況を理解しているため、M&Aによる影響を具体的にシミュレーションすることもできるでしょう。

一方、M&A仲介会社は、M&Aの専門家です。M&Aの相手探しから交渉、契約締結まで、M&Aのプロセス全般をサポートしてくれるため、M&Aが最適な選択肢となった場合には、これ以上ない強力なパートナーとなります。

このように税理士とM&A仲介会社は、どちらもフェーズに併せてうまく活用することで、スムーズに最適な形で事業承継を進める助けをしてくれるでしょう。

M&A仲介を利用するメリット

M&A仲介を利用するメリットは、以下の通りです。

  • 最適な相手と出会える可能性が高まる
    • M&A仲介会社は、独自のネットワークやデータベースを有しており、自社だけで探すよりも多くの候補から最適な相手を見つけることができます。
  • 企業価値を最大化できる可能性がある
    • M&A仲介会社は、企業価値評価の専門知識を有しており、客観的なデータに基づいて適正な価格を算定します。また、交渉のプロフェッショナルとして、売り手企業の利益を最大化できるよう支援します。
  • 時間と労力を節約できる
    • M&Aには、膨大な時間と労力が必要です。M&A仲介会社に依頼することで、経営者業務に専念することができます。
  • リスクを軽減できる
    • M&Aには、法務、財務、税務など、様々なリスクが伴います。M&A仲介会社は、専門知識を活かして、これらのリスクを事前に洗い出し、対策を講じることができます。

M&A仲介の費用と手数料の相場

M&A仲介会社に支払う費用は、主に着手金中間報酬成功報酬から構成されます。ただし、仲介会社によっては、月額報酬企業価値評価費用などが発生する場合もあります。

  • 着手金:M&A仲介業務を依頼する際に支払う費用です。相場は数十万円から数百万円程度ですが、着手金無料の仲介会社も増えています。
  • 中間報酬:M&Aの基本合意契約(買い手企業との間で、大枠の条件で合意すること)が締結された段階で支払う費用です。相場は成功報酬の10%〜20%程度ですが、中間報酬を設定していない仲介会社もあります。
  • 成功報酬:M&Aが成約した際に支払う費用です。多くの仲介会社では、「レーマン方式」と呼ばれる報酬テーブルに基づいて算出されます。

レーマン方式とは、M&Aの取引金額に応じて手数料率が変動する報酬体系です。一般的に、取引金額が大きくなるほど手数料率は低下します。

例えば、以下のようなレーマン方式がよく用いられます。

取引金額手数料率
5億円以下の部分5%
5億円超10億円以下4%
10億円超50億円以下3%
50億円超100億円以下2%
100億円超1%

上記のテーブルを基準にすると、例えば3億円の取引であれば、3億円 × 5% = 1500万円が成功報酬となります。15億円の取引の場合、5億円 × 5% + 10億円 × 4% = 2500万円+4000万円 = 6500万円が成功報酬となります。

ただし、これはあくまでも一例であり、具体的な手数料率は仲介会社によって異なります。また、最低報酬額が設定されていることが一般的で、取引金額が小さい場合でも、一定の報酬が発生します。最低報酬額の相場は、数百万円から数千万円程度です。

M&A仲介会社を選ぶポイント

M&A仲介会社を選ぶ際には、以下のポイントを参考にしてください。

  1. 専門性:自社の業種や規模に精通しているか、事業承継の支援実績が豊富かを確認しましょう。得意分野は仲介会社によって異なります。
  2. 担当者の経験とスキル:担当者の経験や実績、専門性(税務、会計、法務知識など)は十分か、自社との相性は良さそうかを確認しましょう。M&Aの成否は、担当者の力量によるところが大きいです。
  3. ネットワーク:買い手企業(または売り手企業)とのネットワークはどの程度かを確認しましょう。ネットワークが広ければ広いほど、良い縁に巡り会える可能性が高まります。
  4. 地域性・ローカル特化:事業を営んでいる地域に密着し、そのエリアの事情に精通しているかどうかも重要なポイントです。特に、地域に根差した事業承継を希望する場合には、地域経済や商慣習、ネットワークに詳しいM&A仲介会社が適しています。
  5. 報酬体系:報酬体系が明確で、納得できる内容かどうかを確認しましょう。着手金、中間報酬、成功報酬の金額だけでなく、支払時期や条件なども確認が必要です。
  6. 契約内容:契約内容に不明な点や不利な条項がないかを確認しましょう。特に、専任契約(他の仲介会社と並行して契約できない)やテール条項(仲介契約終了後も一定期間内に成約した場合、報酬を支払う必要がある)の有無と条件には注意が必要です。
  7. 信頼性:担当者との面談や過去の実績から、信頼できる仲介会社かどうかを判断しましょう。M&Aは長期間にわたるプロジェクトです。信頼関係を築ける相手かどうかが重要です。
  8. セカンドオピニオン:複数の仲介会社に相談し、比較検討することをお勧めします。各社の提案内容や担当者の対応などを比較することで、自社に最適な仲介会社を見つけることができます。

おわりに

事業承継は、全ての中小企業の経営者にとって避けては通れない重要な経営課題です。そしてM&Aは、事業承継の有効な選択肢の一つとなります。

M&A仲介会社は、専門知識と経験を活かして、M&Aの成立を支援するため、実施の際には心強いパートナーとなります。ただ、手数料は安くはなく、想定外の税負担が生じるリスクもあります。

M&Aを成功させるためには、経営者自身が主体的に関与し、もし依頼する際には自社に適したM&A仲介会社を選ぶことが重要です。この記事では、M&A仲介の基本から、仲介会社の役割、メリット、費用、選び方まで、幅広く解説しました。

事業承継を成功させるためには、早期の準備と専門家への相談が不可欠です。ぜひこの記事を参考に、次のアクションを考えてみてください。当事務所でも、事業承継に関する無料相談やセカンドオピニオンも承っていますので、お気軽にお問い合わせください。